北海道大学 人獣共通感染症国際共同研究所

生物製剤研究開発部門

研究内容

人獣共通感染症の予防・診断・治療薬の研究開発

インフルエンザAウイルスは、その自然宿主が野生水禽で、その腸管で増殖したウイルスが糞便と共に営巣湖沼水中に排泄され、冬季には凍結保存されて自然界に存続している。さらに、過去100年間に人類が経験した4度のパンデミックインフルエンザの原因ウイルスはいずれもヒトの季節性インフルエンザAウイルスと自然界で水禽宿主の間で循環している鳥インフルエンザウイルスが同時感染したブタの呼吸器で産生された遺伝子再集合体である。これらの知見に基づき、鳥と動物のインフルエンザのグローバルサーベイランスで収集した4,500株を超えるウイルスが16のHAと9のNA亜型の組み合わせ144通りに系統保存され、パンデミックインフルエンザのワクチン及び診断ためのウイルス株ライブラリーとしてデータベース化され公開・供給されている。

日本では、パンデミックインフルエンザを新型インフルエンザと称して、季節性インフルエンザと分けてその対策が執られているが、間違いである。季節性インフルエンザワクチンの免疫力価を飛躍的に向上させれば、パンデミックインフルエンザ発生に際して、ワクチンウイルス株をパンデミックウイルスに替えればよい。しかしながら、世界の季節性インフルエンザワクチンは,ウイルス粒子をエーテルまたは界面活性剤で分解したスプリットワクチンが主流である。スプリット(HA)ワクチンは副反応(実は免疫応答)を抑えることを主眼に免疫力価を犠牲にして開発されたために、効果が極めて低く、特に小児と老齢者の発病と重症化を防ぐ免疫を誘導できない(図1)。免疫力価が高く安全な季節性インフルエンザワクチンの開発は、喫緊の国際課題である。当研究室では、パンデミックインフルエンザ対策の基盤は季節性インフルエンザ対策の改善・確立にあることを前提に、日本のインフルエンザワクチンメーカー全5所・社、滋賀医大、熊本大、メルボルン大、感染研と連携して、「全日本インフルエンザワクチン研究会」を立ち上げ、全日本の産・学・官連携による世界基準のインフルエンザワクチンの開発と実用化研究を推進している(図2)。

これまでに、4ワクチン製造所・社から提供された全粒子ワクチンと現行HAワクチンについて各所・社の自家試験ならびに北大と滋賀医大におけるマウスおよび/またはサルを用いた試験を実施して、全粒子ワクチンは現行HAワクチンよりはるかに高い自然免疫及び獲得免疫を誘導すること、ならびに全粒子ワクチンを希釈することで、免疫原性を保ったまま炎症性サイトカインの誘導を抑えることを明らかにした(図3: ワクチンによる免疫誘導メカニズムの違い)。プロジェクトは、第I/II相臨床試験まで進んでおり、安全性について問題がないことが確認された。現在、詳細な免疫応答について解析している(図4)。

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図4
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