メッセージ

分子病態・診断部門について

ウイルスって何者?

2019年から新型コロナウイルスSARS-CoV-2が全世界に広まり、こんな目に見えないウイルスとやらが(目に見えないからこそ)世界中の人々の行動を変えてしまい、皆さんもウイルスに対して様々な思いを抱かれたことと思います。

自然界には計り知れない数のウイルスが存在しています。そのほとんどは未知のウイルスで、現代の網羅的解析でかなり情報は増えましたが、それでも我々が把握しているのは2万種類程度です。その内ヒトや動物に病気を起こすのはごく一部に過ぎず、中には共存する生物にとって有利なウイルスもいます。

人獣共通感染症であるウイルス感染症のアウトブレイクを防ぐにはどうしたらよいでしょう?自然界の野生動物に存在するウイルスを淘汰することは出来ません。One Healthの概念のもとで、ウイルスも一つの地球の構成要素と考えて上手く共存していく必要があります。その上で、ウイルスの存続機構や伝播様式、ヒトや動物に感染してしまった時の病原性の発現機構を研究し、その病原性を発揮させないための予防法・治療法を準備することが重要と考えています。

 

人獣共通感染症国際共同研究所の前身である人獣共通感染症リサーチセンターは、2005年4月に設立された研究機関です。分子病態・診断部門は、澤 洋文教授が部門長を務め、センター設立と同時に設置されました。澤教授は、人獣研における優れた研究業績が認められ、2023年4月には北海道大学Distinguished Professorの称号が付与されました。同年4月からは北大ワクチン研究開発拠点長を務めることとなり、その後分子病態・診断部門は大場が部門長を務めています。

分子病態・診断部門では、ウイルス感染症の病態解明に焦点を当てており、特に、節足動物媒介性ウイルス、狂犬病ウイルスを対象とした研究を実施しており、その他にも、野生動物から見つかった新規ウイルスの研究など、日々新たな発見を求めて研究を行っています。人獣研では、①病原体の存在を明らかにする疫学調査研究、②病原体の増殖機構・病原性を明らかにする基礎研究、③診断・予防・治療法の開発研究、の三つの柱となる研究によって、人獣共通感染症の克服に取り組んでいます。分子病態・診断部門においても、様々なウイルス感染症に関して、これら三つの柱に基づいた研究に取り組んでいます。

①のウイルス調査研究では、ウイルスの存続・伝播経路を明らかにするために、アフリカ、東南アジア、南アメリカなどの地域の国でフィールドワークを実施しています。主に人獣研が拠点を設置しているザンビア共和国において、現地のザンビア大学獣医学部のカウンターパートやスタッフと共に、蚊、齧歯類動物、コウモリなど採集しています。様々な感染症のアウトブレイクが発生するリスクがある地域では、環境や文化の違いを目の当りにし、現場の意見を聞くことで、感染症対策の重要性を実感します。感染症克服に向けた持続的な対策には、現地の人々の教育、技術習得が不可欠です。ザンビアなどからこれまで多くの海外留学生が大学院に入学し、卒業後には現地で活躍する姿を見ると、教育の重要性を再認識出来ます。

②の基礎研究では、ウイルスの性状解析、宿主内増殖機構、病原性解析をウイルス学、分子生物学的解析、さらにオミクス解析等の最先端技術を用いて、ウイルス感染症の病態発現機構の解明を目指しています。我々の部門では、病理組織学的解析を得意としています。感染モデル動物を確立することで、ウイルス感染症の病態解明、治療効果などの解析が可能となります。

これらの基礎研究を基に、③では診断法、ワクチンなどの予防法、治療法の開発に繋がる研究を実施しています。検査・診断法の開発は、①のウイルス調査におけるスクリーニング法にも繋がります。予防法・治療法などの実用化に繋がる研究を推進するには、様々な分野の研究者や、企業との連携が必要です。分子病態・診断部門は、2013年度から塩野義製薬さんとの共同研究を開始し、共同研究員の方と一緒に、ウイルス感染症の治療法の開発に向けた研究を推進しています。2018年4月には、人獣研に「シオノギ抗ウイルス薬研究部門」が設置されました。両部門は同じ実験室で、協力しながら抗ウイルス薬の開発研究を実施し、COVID-19流行時には、SARS-CoV2に有効な治療薬の開発に精力的に取り組み、国産初の新型コロナ治療薬「ゾコーバ」の開発に繋がりました。

 

大学院教育では、「大学院国際感染症学院」(https://www.infectdis.hokudai.ac.jp/)において、博士(獣医学)もしくは博士(感染症学)を育成しています。本学院では、人獣研、獣医学研究院、および医学研究院等の教員が参画することにより、それぞれの専門を活かした分野横断的な教育体制を構築し、世界30カ国以上の共同研究ネットワークを活用して、「感染症プロフェッショナル」の養成を目指して、社会的に問題となっている感染症の制御を主導できる人材を養成します。また、北海道大学が認定する人獣共通感染症対策専門家(ZCE)となるためのプログラムを実施しています。分子病態・診断部門のスタッフである大場と佐々木は、共にZCE一期生です。

分子病態・診断部門からは、これまでに16人の博士号取得者を輩出し、ZCEとして認定されています。うち6人は外国人留学生です。我々の部門では、学生本人が興味のある研究に取り組んでもらい、自ら仮説を立て、研究目標を達成するための計画を立て実験し、その過程において生じる問題への適切な対処、解決が出来るようになってもらいたいと考えています。

アウトブレイクを阻止したい!という熱い想いでも、ウイルスって何者よ?そもそも“生物”なの?という素朴な疑問に満ち溢れている人でも、ウイルス研究生活に興味のある方は是非気軽にご連絡下さい。

 

大場 靖子 [email: orbay□czc.hokudai.ac.jp (□を@に変えてご連絡ください)]

 


前部門長 澤先生からのメッセージはこちらから