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研究内容

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ウイルスの生態・進化と自然宿主

1. フィロウイルスの自然宿主動物の同定と自然界における存続メカニズムの解明 Zambia bat collection

フィロウイルス(エボラウイルスおよびマールブルグウイルス)はヒトを含む霊長類に重篤な出血熱をひきおこす病原体として知られている。フルーツバットがフィロウイルス自然宿主として疑われているが、証拠は十分とは言えない。近年、霊長類以外の動物のフィロウイルス感染およびヨーロッパにおける新種のフィロウイルス発見などの報告により、フィロウイルスの宿主域・生態に関する研究が新たな展開をみせている。我々は、アフリカおよびアジアにおけるフィロウイルスの疫学調査、特に野生動物(フルーツバットやサル等)の調査を進めているところである。

Possible routes of filovirus transmission

インドネシア、カリマンタン島に生息するボルネオオラウータン(Pongo pygmaeus) 353頭から2005-2006年に採取した血清を用いて、フィロウイルスに対する特異IgG抗体を、GPを抗原として用いたELISA法でスクリーニングした。その結果、エボラウイルスに対する抗体が18.4% (65/353)、マールブルグウイルスに対する抗体が1.7% (6/353)の個体から検出された。エボラおよびマールブルグウイルスの間に交差反応性は認められなかった。面白いことに、アジアで確認されている唯一のフィロウイルスであるReston virusに最も高い特異性を示したサンプルは1.4% (5/353)だけであったのに対し、殆どの陽性サンプルは現在までにアフリカでしか見つかっていないZaire、Sudan、Tai ForestおよびBundibugyo virusに対して特異性を示した。これらの結果は、オラウータン血清中のフィロウイルス特異的IgG抗体の存在を強く示唆する。また同時に、インドネシアにおける複数種のフィロウイルスおよびアフリカのフィロウイルスに抗原的に類似したウイルスの存在を示唆している。

Seroprevalence for each filovirus species in fruit bats in Zambia and reported outbreaks in central Africa since 2005

ザンビアでは、2006年-2013年にフルーツバット(Eidolon helvum)748頭から採取した血清中の抗体を調べた結果、9.5% (71/748)からフィロウイルスに対する特異IgG抗体が検出された。殆どの血清が、アフリカで見つかっているフィロウイルス(Zaire、Sudan、Tai ForestおよびBundibugyo virus)に対して特異性を示したが、Reston virusに最も高い特異性を示した血清も存在した。興味深いことに、中部アフリカで流行したエボラ出血熱を引き起こしたウイルス種の変遷と、同時期に捕獲したコウモリから優勢に検出される抗体の特異性に相関が見られた。これらの結果は、複数種のフィロウイルスがコウモリ集団内に導入された事を示唆していると同時に、現在の流行地域以外においても野生動物におけるフィロウイルス感染のサーベイランスを継続する必要性を示している。


2. インフルエンザのグローバルサーベイランス

A型インフルエンザウイルスは2種類の糖蛋白質ヘマグルチニン(HA)およびノイラミニダーゼ(NA)の抗原性によって亜型に分類され、これまでに16種類のHA(H1-H16)および9種類のNA (N1-N9)亜型が野生水禽から分離されるウイルスで見つかっている。これらの亜型の中で、現在までにパンデミックウイルスとしてヒトに流行したのはH1N1、H2N2およびH3N2であるが、近年、H5N1、H7N7、H7N9およびH9N2亜型の鳥インフルエンザウイルスのヒトへの感染が頻繁に報告され、これらの亜型のウイルスによるパンデミックの可能性が危惧されている。これらのウイルスの拡散を監視するために、我々は日本、モンゴルおよびザンビアで、野生水禽を対象にウイルス保有調査を継続している。

Avian influenza surveillance in Mongolia

これまでに行われた多くの調査・研究によって、H5N1高病原性鳥インフルエンザウイルスの流行拡大における野鳥の役割が明らかとなってきているが、アフリカにおける鳥インフルエンザウイルスの生態あるいは疫学的情報は極めて限られている。これまでにザンビアで行った野生水禽(ガン、カモおよびペリカンなど)のインフルエンザウイルス保有調査で、12株のインフルエンザウイルス(H3N8、H4N6、H6N2、H9N1、H11N9等)を分離した。いくつかのウイルス株では、南アフリカ共和国で家禽あるいは野生水禽から分離されたウイルスと近縁である遺伝子分節が含まれており、南部アフリカ地域における野生水禽と家禽の間のインフルエンザウイルスの頻繁な伝播の可能性を示唆していた。一方、あるウイルスでは、ヨーロッパやアジアのウイルスと相同性の高い遺伝子を有しており、大陸間のウイルスの動きが確認された。

サーベイランスの詳細は北海道大学大学院獣医学研究科微生物学教室のホームページもご覧ください。

病原体および宿主分子の相互作用

1. フィロウイルスの表面糖蛋白質の機能解析と病原性発現および宿主域決定の分子基盤の解明 filovirus

エボラウイルスの研究には、その強い病原性のため、生物学的封じ込めレベル4(BSL4)の実験施設を使用しなければならず、研究進展の障害となっていた。そこで、豚水泡性口炎ウイルス(VSV)のG蛋白質をエボラウイルスの表面糖蛋白質(GP)に置換したシュードタイプウイルス(エボラウイルスのGPを使って細胞に侵入するVSV)をリバースジェネティクス法によって作出することによって、GPの機能解析およびレセプターの同定を安全に行えるシステムを開発した。このシュードタイプウイルスを用いて、GPの機能解析、エボラウイルスレセプターの同定、細胞進入機構の解析および中和抗体あるいは抗ウイルス薬のスクリーニングを行っている。しかし、このシステムを用いて得られた知見を、実際のエボラウイルス感染で確認する必要があるので、現在はアメリカNIHの国立研究施設のBSL4施設内でエボラウイルスの感染実験を同時に行うという体制で研究を進めている。

一般に、ウイルスの細胞侵入過程は抗ウイルス薬の標的メカニズムである。しかし、フィロウイルスの細胞侵入過程には未だ不明な点が多い。我々は、ウイルスの吸着レセプターと考えられているT-cell immunoglobulin and Mucin domain 1(TIM-1)と膜融合レセプターと考えられているNiemann-Pick C1 (NPC1)が、エンドゾーム内で相互作用することが膜融合に重要であることを見出した。TIM-1に対するマウスモノクローナル抗体M224/1は、この相互作用を阻害することによって膜融合を阻害し、結果としてウイルスの感染を抑制する。これらの結果は、これらの宿主因子同士の相互作用が創薬の標的となりうることを示している。

Host cell molecules involved in filovirus entry
TIM-1/NPC1 interaction during filovirus entry

病原体および宿主蛋白質の構造と機能

1. 新規フィロウイルス、Lloviu virusの表面糖タンパク質GPの性状解析

ヨーロッパで斃死したコウモリから検出された新規フィロウイルス、Lloviu virus (LLOV) は進化系統上、マールブルグウイルス属 (genus Marburgvirus) やエボラウイルス属 (genus Ebolavirus) のウイルスとは独立しており、フィロウイルス科の新たなウイルス属 (genus Cuevavirus)に分類される。エボラおよびマールブルグウイルスはヒトを含む霊長動物に重篤な出血熱を引き起こすことが知られているが、LLOVは遺伝子が検出されたのみで感染性ウイルスの分離に成功していないため、その霊長動物に対する病原性は未だに不明である。GPのアミノ酸配列は他のフィロウイルスと同様の構造(Furin開裂部位、ムチン様領域、RNA-editingなど)をしており、LLOVのGP、主要マトリックスタンパク質 (VP40) および核タンパク質 (NP) を発現するプラスミドを293T細胞に導入すると、他のフィロウイルスと同様に直径80 nm、長さが多様で、表面にGPのスパイクを有する糸状のウイルス様粒子が産生されることが分かった。表面にGPのスパイクを多数有していることが分かった。次に、水胞性口炎ウイルス (VSV) のシュードタイプシステムを用いて種々の哺乳動物由来細胞に対する感染性の比較を行った。その結果、LLOVのGPを持つVSVシュードタイプは霊長動物由来の細胞を含む多種多様な哺乳動物由来細胞に感染したが、エボラおよびマールブルグウイルスに比べ特定のコウモリ由来の細胞に高い感染性を示すことが分かった。このことから、LLOVのGPは他のフィロウイルス同様にヒトを含む霊長動物細胞の受容体を利用できる一方で、特定のコウモリに対する受容体特異性を示すことが示唆された。


2. コウモリ由来新規インフルエンザウイルスの表面糖蛋白質の性状解析

Transmission electron microscopy of pseudotyped VSVs 近年、グアテマラとペルーの果食性コウモリからインフルエンザウイルス様のRNAが検出された。系統樹解析の結果、既知のインフルエンザウイルスとは異なり、H17N10およびH18N11亜型に分類されることが提唱されている。しかし、これらのコウモリ由来インフルエンザウイルス (BatIV) は遺伝子が検出されているがウイルス分離には成功しておらず、その生物学的な特徴や病原性に関する情報は乏しい。我々は、BatIVの表面糖タンパク質を持つシュードタイプVSVを作出し、BatIVのレセプターを探索している。これまでに、BatIVは他のインフルエンザウイルスがレセプターとして用いるシアル酸糖鎖を認識せず、特定のコウモリに発現している分子をレセプターとしていることを示す成績を得ている。

人獣共通感染症の流行予測と予防・診断・治療法

1. インフルエンザウイルス亜型間交差感染防御免疫における抗体の役割 Highly cross-reactive MAb S139/1

インフルエンザウイルスのHA型とは血清型であり、ある亜型のウイルスに対する抗血清は他の亜型のウイルスに対して中和活性や赤血球凝集阻止活性を示さない。よって、中和抗体は、亜型間で交差反応しないと考えられてきた。しかし我々は、H1、H2、H3、H13およびH16亜型のウイルスに対して亜型間交差中和活性を示すモノクローナル抗体(S139/1)の作出に成功した。この抗体はウイルスのレセプター結合を阻害することでウイルスの感染性を中和する。エピトープはHAのglobular head領域に存在し、HAのレセプター結合部位に近接していた。さらに、S139/1で受動免疫したマウスでは、H1、H2およびH3亜型のウイルスに対して感染防御効果が認められた。本研究は、亜型間交差感染防御免疫における抗体の役割を実証し、交差反応性抗体を用いたインフルエンザに対する抗体療法の可能性を示唆するものである。

Aggregation of influenza virus particles on the cell surface in the presence of S139/1 IgA

IgAおよびIgG抗体はインフルエンザに対する感染防御免疫に重要な役割を演じているが、亜型間交差感染防御免疫における重要性は良く分かっていない。そこで、HAに対する交差反応性抗体を用いて、IgGとIgAの抗ウイルス活性をin vitroで比較した結果、IgA抗体は感染細胞からの子孫ウイルスの放出を著しく阻害することが明らかとなった。電子顕微鏡で観察すると、新しく産生されたウイルス粒子が細胞表面上に凝集している像が認められ、IgA抗体がウイルス粒子を架橋して繋ぎとめていると思われた。このような現象は非中和抗体でも認められ、この活性は亜型間交差感染防御免疫におけるIgA抗体の機能の一つである可能性が示された。


2. モノクローナル抗体を用いたウイルスの予防・診断・治療薬の開発

フィロウイルスおよびインフルエンザウイルスの構造蛋白質に対すモノクローナル抗体を多数作出してきた。それらを用いて、基礎研究に活用するとともに、予防・治療法および診断法の開発を行っている。

Marburg virus (VLP) accumulated on the cell surface

マールブルグウイルスGPに対するモノクローナル抗体の中には、中和活性を全く持たないにも関わらず、ウイルスの増殖を抑制する可能性があるものが存在し、それらの抗体はウイルスの出芽を抑えていることを明らかにした。電子顕微鏡による観察で、抗体存在下で効率よく出芽出来ずに、細胞表面にウイルス粒子が凝集する像が認められた。これらの結果は、抗体によるウイルス増殖阻害の新しいメカニズムを提唱し、古典的な中和活性のみが感染防御抗体としての指標ではないことを示唆している。

エボラ出血熱に対するワクチンあるいは治療法は実用化されていない。そこで、中和抗体を用いた治療法開発を試みた。エボラウイルスに対する2種類のマウスモノクローナル抗体産生ハイブリドーマから抽出した遺伝子から、ヒト-マウスキメラ抗体を作出し、アカゲザルモデルを用いて受動免疫による感染防御効果を評価した。抗体を投与したサルでは、ウイルス攻撃後の体内のウイルス量の抑制および致死的感染からの防御が認められた。生残したサルでは、ウイルスの感染によって自発的に抗体が誘導されるまで、投与した抗体が血液中に存在していた。一方、死亡したサルでは、投与した抗体の血中濃度は、感染後期には検出感度以下まで減少していたことから、ウイルス増殖による急激な抗体の消費が推測された。実際に、血中ウイルスタイターの増加と抗体濃度の減少は明らかに相関していた。これらの結果から、エボラウイルスに対する中和抗体を用いた受動免疫の有効性が確認された。

Human-mouse chimeric MAbs

モノクローナル抗体による治療法の有効性は、インフルエンザに対しても確認された。アジアや中東の限られた国々に未だに存在し、時にヒトに感染し致死率の高い感染症を引き起こしているH5N1亜型の高病原性鳥インフルエンザウイルスをモデルに、H5ウイルスに中和活性を示すヒト-マウスキメラ抗体による受動免疫の感染防御効果を、H5N1高病原性鳥インフルエンザウイルス感染マウスモデルおよびカニクイザルモデルで評価した。その結果、中和抗体を投与した動物でウイルス増殖の抑制および生存率の上昇が認められ、受動免疫が有効であることが実証された。

Rapid test for Ebola diagnosis

これまでエボラウイルス感染の診断には、主にRT-PCR法などが使用されており、特別な装置と長い測定時間を必要とする。我々がデンカ生研(株)と共同開発しているイムノクロマト法(エボラウイルスのNPに対する抗体を使用)は、特別な器具や装置を必要とせず、室温で長期間安定、簡便且つ迅速な検査が可能で、電源などが十分でない地域においても活用が期待されている。また、交差反応性の高い抗体を用いているため、アフリカで見つかっている複数のエボラウイルス種を検出出来る。今後、本法を採用したエボラウイルス迅速診断キットの実用化に向けて開発を進めている。

エボラウイルス抗原検出迅速診断キットの開発に関するお知らせ

計算機を用いた人獣共通感染症病原体の解析

HA-mAb complex

人獣共通感染症は、野生動物と共存していた微生物が、ヒトに侵入、伝播することにより引き起こされる疾病である。近年、インフルエンザ、デング熱、エボラ出血熱など、人獣共通感染症が世界各地で発生し、人類の脅威となっている。人獣共通感染症を制御するためには、自然界における病原体の存続メカニズムを明らかにするような生態系レベルの視点から、病原性や宿主域を決定する因子を明らかにするような分子レベルの視点まで、病原微生物を包括的に研究する必要がある。我々は、病原微生物や宿主蛋白質の機能や構造について、バイオインフォマティクス、計算化学、分子進化学手法等を組み合わせた計算科学的アプローチにより、原子・分子および遺伝子レベルで理解することを目指している。またそれに伴い、ワクチンや予防・治療薬開発のための基礎研究も同時に進めている。

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