メッセージ

前部門長 澤先生からのメッセージ

分子病態・診断部門について(前部門長 澤先生からのメッセージ)

人獣共通感染症国際共同研究所の前身である人獣共通感染症リサーチセンターは、2005年4月に設立された研究機関で、分子病態・診断部門はセンターの中でも一番古く、センター設立と同時に設置されました。現在は人獣共通感染症の中でも主にウイルス感染症の病態解明に焦点を当て、日々研究を行っています。

これまで、人獣共通感染症リサーチセンターは獣医学研究科と連携して、21世紀COEプログラム、グローバルCOEプログラムにより、「人獣共通感染症国際共同研究教育拠点」を構築し、博士課程教育リーディングプログラム「One Healthに貢献する獣医科学グローバルリーダー育成プログラム」では、国際舞台で活躍できる獣医科学専門家を育成するために、大学院教育を改変して、学際的な視野を養うためのスクーリングの強化や実践的な国際活動を取り入れた大学院教育を推進してきました。そして、2017年4月には、感染症学に関する広い視野、柔軟な発想力及び総合的な判断力を有し、我が国のみならず世界の感染症学の発展ならびに感染症の制圧に寄与できる実践的な能力と指導力を備えた人材の育成を目指すために、「国際感染症学院」が設置されました (https://www.infectdis.hokudai.ac.jp/)。さらに2018年からは北海道大学大学院 獣医学院・国際感染症学院が中心となって推進する「One Healthフロンティア卓越大学院プログラム」を開講して、疾病制御・予防の理念を明確に持ち、バランス感覚に優れた国際性を備え、動物、人および生態系の健康を俯瞰的に捉えOne Health に係る問題解決策をデザインして実行できる専門家 (知と技のプロフェッショナル)の育成を目指しています (https://onehealth.vetmed.hokudai.ac.jp/about/)。

大学院国際感染症学院」では、目標とする人材像に求められる具体的な能力(学位授与水準)を博士課程感染症学専攻において定め、当該能力を身につけ、かつ所定の単位を修得し、学位論文の審査及び試験に合格した者に博士の学位を授与します。さらに本人の希望、専門性、将来の活動分野を考慮して、博士(獣医学)もしくは博士(感染症学)を選択することができます。本学院においては、人獣共通感染症リサーチセンター、獣医学研究院、および医学研究院等の教員が参画することにより、それぞれの専門を活かした分野横断的な教育体制を構築し、世界30カ国以上の共同研究ネットワークを活用して、「感染症プロフェッショナル」の養成を目指して、社会的に問題となっている感染症の制御を主導できる人材を養成します。

また、「One Healthフロンティア卓越大学院プログラム」は博士課程(4年制)の学位プログラムです。北海道大学大学院 獣医学院・国際感染症学院の入学試験合格者のうち、本プログラムへの参加を希望する学生から試験により選抜します。本プログラムの趣旨を理解し、積極的にプログラムの諸活動ができる学生を募集しています。プログラムに参加することで、教育支援経費、卓越大学院研究費、インターンシップや海外での共同研究を実施するための旅費、国際学会で研究成果を発表するための旅費などの支援を受けることができます。詳細は、「プログラム参加者選抜要項」をご覧ください(https://onehealth.vetmed.hokudai.ac.jp/content/files/Admissions/WISE_Selection_(AE2019).pdf)。国際感染症学院、およびOne Healthフロンティア卓越大学院プログラムに興味を持った学生さん、社会人の方は詳しく説明致しますので、いつでも気軽にご連絡下さい。また、2021年3月からは「One Healthフロンティア卓越大学院プログラム」の活動を担うOne Health Research Centerが設置され、2022年3月には、現在建設中の人獣共通感染症国際共同研究所の3号棟の1階に実験室、病原体診断室が設置されました。私が初代センター長を仰せつかっております(https://ohrc.vetmed.hokudai.ac.jp/)。

分子病態・診断部門では、国内外の共同研究も盛んに実施しております。2014年度から、人獣共通感染症リサーチセンター及び北海道大学獣医学研究院は「ユニット丸ごと誘致プログラム」を推進しております。北海道大学の強み・特色を活かした国際連携研究・教育の推進と、部局が独自に進める国際連携研究・教育の支援を目的とし、世界トップレベルの教員を国内外及び学内から結集した総長直轄の教員組織である国際連携研究教育局(GI-CoRE)を設置し、その中に人獣共通感染症グローバルステーションが設置されております(https://gi-core.oia.hokudai.ac.jp/gsz/)。現在、オーストラリアのメルボルン大学、アイルランドの国立アイルランド大学ダブリン校、サウジアラビアのアブドラ王立科学技術大学と強固な連携の基に人獣共通感染症を対象とした共同研究を推進しております。私はアイルランド大学ダブリン校のHall教授と30年間に渡る共同研究を継続しており、現在も蚊媒介性のウイルス性疾患であるチクングニアウイルス、デングウイルス、日本脳炎ウイルス等に関する共同研究を強力に推進しています。国際共同研究先は、ヨーロッパ、アフリカ、オーストラリア、北米、中南米、東南アジアと5大陸に展開しています。これまでに、アフリカに55回以上、中南米に5回訪問し、国際共同研究ネットワークを介した疫学・基礎研究を実施しています。

2013年度からは塩野義製薬さんとの共同研究を開始し、共同研究員の方と一緒に、ウイルス感染症の治療法の開発に向けた研究を推進しており、その成果が認められて、2018年4月から、人獣共通感染症リサーチセンターには「シオノギ 抗ウイルス薬研究部門」が設置されました。現在は、塩野義製薬さんの研究員の方々と、同じ実験室で、抗ウイルス薬の開発研究をさらに進めています。

当部門では、

  1. ウイルス感染によって細胞に生じる細胞内応答について、ウイルスタンパク質と細胞のタンパク質との相互作用に着眼して基礎研究を推進し、病原体による病原性発現機構を解明し、得られた基礎的結果に基づき感染症の治療法を開発すること。
  2. ウイルス感染症の生活環を解明するために、疫学的研究を推進すること。
  3. 基礎研究・疫学研究の知識を有する「人獣共通感染症の予防・制圧に貢献できる人材」を育成すること。

を目標としています。

当部門は個人の発想に基づいて研究を遂行することを一番大切にしています。アメリカの研究室では、ノーベル賞候補の著名な研究者と、若い研究者がfirst nameで呼び合う自由な雰囲気の中で、積極的に議論を行う光景がよく見られます。日本とアメリカは習慣や文化に違いがあるので、この雰囲気をそのまま日本に持ち込むことはできませんが、研究の場における「自由な雰囲気」を少しでも取り込むことを目指しています。

研究の結果を論文としてまとめることは研究者の義務ですが、論文を出すことが研究の全てではありません。ある事象に関して既知の事実に基づき仮説を組み立て、それを実証する実験を計画し、実施する。実験から得られた結果を解釈し、次の仮説を組み立てる。たとえ、得られた結果が、論文としてまとめることが出来なかったとしても、思考および実験の実施の積み重ねこそが研究だと思います。現在の科学の進歩により、生命現象をより詳細に理解することが可能となりました。生命現象は従来考えられていたよりも、深くそして複雑です。我々が実施する実験においては、複雑な生命現象を理解するために、多方面から現象を解析し、その結果として真実を見出すことが重要だと思います。

研究の場では、若年者であろうと、年齢を重ねた著名人であろうと、研究者は等しく同じ立場にいると思います。研究に必要なのは、科学的な事実を正しく解釈する判断力、そして事実を実証する実験を組み立てる構成力だと思います。

サイエンスは、それを知れば知るほど果てしなく新たな疑問が増えていくと思います。新たな疑問の究明に向け、研究者は日々の勉学に努めなければ なりません。これは私自身への訓戒でもあります。研究は、ひとつひとつのステップは地味で単調で、継続的な努力が必要とされます。研究生活における私の喜びは、仲間の頑張っている姿を見ることと、彼らと熱い議論を交わすことです。そして、これらが私の研究の活力の源です。私達の部門では、今後も仲間同士のチームワークを大事にし、興味深い現象を探求し、互いに切磋琢磨し続けたいと考えています。そのためにも年功序列などの形式に囚われることなく、純粋に科学的探求と、活発な議論とを可能にする研究環境の醸成と提供に、私自身が責任を持って努めていくつもりです。

 

私達の研究に興味・関心を持たれた学生、研究者の方がいらっしゃいましたら、いつでも御連絡下さい、部門の皆で歓迎致します。

 

分子病態・診断部門
澤 洋文