研究プロジェクト

基礎研究

実験室での研究活動紹介

私達の研究室はウイルス性疾患を対象とした基礎研究を実施しています。

研究室には病理学を学んできた者が多いので、細胞組織及び免疫組織学的方法を得意としており、更に分子生物学的手法、ウイルス学的実験手法等を駆使して、種々の実験を推進しています。

研究の柱は、1)ウイルス感染による宿主の病態の解析、2)ウイルスの細胞内動態の解析、3)ウイルス感染症に対する治療法の開発の3つです。

以下に実際に私達が現在推進している研究を紹介します。

ウエストナイルウイルス感染症の病態解析

フラビウイルスは、節足動物を介してヒトや動物に感染し、病気を引き起こす人獣共通感染症が多く含まれています。我々は重篤な脳脊髄炎を惹起するウエストナイルウイルス(WNV)をモデルにフラビウイルス感染症の研究を行っております。WNV感染症はアメリカやヨーロッパを中心に流行しており、本国への侵入・流行も危惧されています。

WNVは末梢から脳組織に移行し、中枢神経系の神経細胞において増殖します。ウイルス増殖を伴った神経細胞死が病態形成に大きな役割を果たしています。そこで私たちは、WNVの脳内侵入機構を明らかにするために、血管内皮細胞におけるWNVの透過性を、末梢接種によりマウスに脳炎を引き起こす強毒WNV株(NY99株)と脳炎を引き起こさない弱毒株(Eg101株)で比較すると、エンベロープを構成するEタンパク質の2個のアミノ酸の違いによって、NY99株の血管内皮細胞の透過性が高いことを明らかに致しました(Hasebe et al, BMC Microbiol, 2010)。

続いて、WNV感染マウスにおける神経細胞の変化を病理組織学的手法及び生化学的手法を用いて解析し、WNV感染神経細胞において不溶性ユビキチン化タンパク質が蓄積していることを明らかにしました。不溶性ユビキチン化タンパク質は、神経細胞死を伴う神経変性疾患において蓄積することが知られています。得られた結果から、WNV感染による神経細胞障害も不溶性ユビキチン化タンパク質の蓄積により惹起されることが示唆されました(図1)(Kobayashi et al, Neuropathology, 2012)。

図1 WNV図

図1. WNV図

また、様々なウイルス感染によって誘導される宿主反応であるオートファジーに着目し、WNVの増殖におけるオートファジーの役割を検索しました。WNV感染により、ヒト神経芽細胞腫においてオートファジーマーカーのLC3-IIの発現が増加し、オートファジー誘導に必須のタンパク質であるATG5のノックアウトマウス由来胚性線維芽細胞でWNVの増殖が亢進することが明らかになりました。以上から、オートファジーはWNV感染により誘導され、WNVの増殖を抑制することが明らかになりました(Kobayashi et al, Virus Res., 2014)。

また北海道大学電子科学研究所の新倉博士、国立感染症研究所の鈴木博士等との共同研究において、WNVに対する抗体産生効果が金ナノ粒子によって増強されること、また、金ナノ粒子の形状、大きさによりサイトカイン放出等の宿主反応が異なっていることを明らかにしました(Niikura K et al, ACS Nano, 2013)。

更に、WNVの細胞侵入過程において、ウイルス粒子の細胞内輸送機構を詳細に検討し、細胞侵入過程における初期の遅い動きと、後期の速い動きが有ること、細胞侵入過程後期の速い動きは、細胞の微小管依存性であることを、蛍光標識したウイルス様粒子を用いて明らかにしました(Makino et al, J Virol Methods, 2014)。

現在は、WNVの細胞内動態と細胞外への放出機構の解明に取り組んでいます。

狂犬病ウイルスの細胞感染機構の解析

狂犬病は毎年世界で5,5000人以上の人を死に至らしめる人獣共通感染症です。狂犬病の原因ウイルスである狂犬病ウイルス(RABV)は、全ての哺乳類動物に感染し、狂犬病罹患動物による咬傷から人の体内に侵入し、中枢神経系に到達すると致死的な神経症状を惹起します。

私達は、狂犬病ウイルスの増殖機構の解明を目指して、狂犬病ウイルス増殖に利用される、もしくはウイルスの増殖を抑制する宿主因子を探索しています。更に、ウイルスがコードするタンパク質と宿主因子の相互作用について研究しています。

これまでに、細胞の表面に存在するヘパラン硫酸が狂犬病ウイルス粒子と結合し、ウイルスの効率的な細胞吸着を促進することでウイルス感染を増大させることを見出しました。さらに、ウイルスのGタンパク質がリガンドとして機能すること、ヘパラン硫酸のN型-硫酸修飾が狂犬病ウイルスとの結合に重要であることを示し、狂犬病ウイルスとヘパラン硫酸の結合機構の詳細を明らかにしました(Sasaki et al, J Infect Dis., 2018)。

また、岐阜大学応用生物科学部の杉山博士、伊藤博士との共同研究で、reverse geneticsを利用した組換えRABVを作出しました(Anindita et al, Virus Res., 2016)。作出した組換えRABVを用いて、化合物のスクリーニングを実施し、狂犬病ウイルス増殖を阻害する化合物を見出しました(Anindita et al, Antiviral Res., 2018)。

ウイルス性疾患の制圧に向けた治療法の開発研究

私達は、塩野義製薬とデング熱を主としたウイルス性疾患に対する治療法の開発についての共同研究を実施しています。

デング熱はシマカ(ネッタイシマカ、ヒトスジシマカ)によって媒介されヒト-ヒトの間で感染環が成立しているフラビウイルス科に属するデングウイルス(DENV)によって惹起される感染症です。DENVは血清型により4種類(DENV-1, DENV-2, DENV-3, DENV-4)に分類されます。2014年に東京の代々木公園を中心として発生したデング熱はDENV-1によるものだったと報告されています。デング熱は熱帯、亜熱帯に存在するアジア、アメリカ、アフリカの100カ国以上で発生しており、世界中で10億人が感染の危険に晒されているという報告があります。DENVに感染した症例はウイルス血症を呈することにより、次の感染者に対するウイルスの補給源となります。DENVに感染すると20-50%の方は一過性の発熱を伴うデング熱を発症し、1週間ほどで治癒します。初感染後、他の血清型のDENVに感染すると血漿の漏出と出血傾向を伴うデング出血熱(Severe Dengue)を発症する確率が増加します。

現在DENVによる感染症に対しての予防法、及び治療法は確立されておらず、私共は共同研究として治療薬の開発を試みております。更に、他の新興・再興感染症についても共同研究を展開しています。

[シオノギ抗ウイルス薬研究部門の紹介はこちら]

JCウイルスの細胞内増殖機構の解明

JCVは、ポリオーマウイルス属に属する二本鎖DNAウイルスで、エンベロープを持たない直径約40 nmのウイルスです。多くのヒトは幼少期にJCVに初感染し、正常成人の70~80%がJCVに対する抗体を保有しています。しかし、AIDS等の免疫不全状態において、JCVが主に脳内のオリゴデンドロサイトで増殖し、進行性多巣性白質脳症 (progressive multifocal leukoencephalopathy: PML)という致死性疾患を発症することがあります。現在、PMLには有効な治療法が確立していません。

私達は、JCVの細胞内増殖のメカニズムを解明するため、国立感染症研究所の鈴木博士との共同研究で、JCVのコードするタンパク質の機能解析、ゲノムの発現機構の解析、及びウイルス増殖に必要な細胞内因子の探索を実施しています。これらの基礎研究によって得られた知見から、JCVの増殖を抑制する治療法を見出し、PMLを克服することを目指しています。これまで私達が明らかにしてきたJCVの細胞内増殖機構をまとめました(図2)。更にその中で最近の知見を下記に紹介致します。

図2. これまでに私達が明らかにしてきたJCVの細胞内増殖機構(ウイルス64: 1: pp25-34より引用)。

図2. これまでに私達が明らかにしてきたJCVの細胞内増殖機構(ウイルス64: 1: pp25-34より引用)。

ノンエンベロープウイルスが細胞から出て行くためには、細胞破壊 (cell lysis)が必要だと考えられています。このcell lysisに先立ち、イオンなどの小分子に対する細胞膜の透過性が亢進していくことが知られており、この細胞膜の透過性の亢進により細胞が破壊されると考えられています。近年、この細胞膜透過性亢進の誘導にウイルスタンパク質が直接的に関わっていることが判明し、このような機能を持つウイルスタンパク質の一群を分類するviroporinという概念が提唱されています。JCVでは後期タンパク質のAgnoproteinがviroporinとして機能していることが明らかとなりました (Suzuki T. et al. PLoS Pathog. 2010)。Agnoproteinは細胞膜上でホモオリゴマーを形成し、細胞膜の透過性を亢進させる事により、cell lysisを誘導し、細胞外へのウイルス粒子の放出を促していると考えられます(図3)。

図3. A) JCV粒子は核内で産生され細胞外へ放出される。Agnoprotein欠損ウイルス(ΔAgno JCV)では粒子が細胞外へ放出されない。B) AgnoproteinはHP1αと相互作用しウイルス粒子の核から細胞質への輸送を促進する。C) Agnoproteinは細胞膜でホモオリゴマーを形成し、viroporinとして機能する。viroporinはcell lysisを誘導しウイルス粒子の細胞外への放出を促進する。

図3. A) JCV粒子は核内で産生され細胞外へ放出される。Agnoprotein欠損ウイルス(ΔAgno JCV)では粒子が細胞外へ放出されない。B) AgnoproteinはHP1αと相互作用しウイルス粒子の核から細胞質への輸送を促進する。C) Agnoproteinは細胞膜でホモオリゴマーを形成し、viroporinとして機能する。viroporinはcell lysisを誘導しウイルス粒子の細胞外への放出を促進する。

また、Agnoproteinは核膜でヘテロクロマチンプロテインHP1αと結合し、この相互作用により核膜の構造が変化しウイルス粒子が核から細胞質へ輸送されている事も明らかにしています (Okada Y. et al. EMBO Rep. 2005)。さらに、Agnoproteinがビロポリンとして機能する分子機構を明らかにする為に、yeast two hybrid system を用いてAgnoproteinに結合する宿主因子を探索した結果、細胞内の物質輸送に関わるアダプタータンパク質であるadaptor protein complex 3 (AP3) のδサブユニット (AP3D)をAgnoprotein結合因子として同定しました。同定したAP3DとAgnoproteinの相互作用について分子生物学的および生化学的手法を用いて詳細に解析した結果、AgnoproteinはAP3Dと直接結合することによりAP3が制御する細胞内小胞輸送系を阻害し、Agnoprotein自身のリソソーム分解系への輸送を抑制していること、その結果としてAgnoproteinはリソソームで分解されずに、細胞膜上へ移動することが可能となり、viroporinとしての機能を発揮していることが明らかになりました(図4)。更に、得られた結果に基づいてAP3DのAgnoprotein結合部位を過剰発現させると、ウイルス粒子の細胞外放出は抑制され、最終的にJCV感染を抑制することが可能となりました。これらの結果は、viroporinの機能発現に宿主因子との相互作用が必要不可欠であること、viroporin―宿主因子相互作用のインターフェースが新たなウイルス感染治療薬の標的と成り得ることを示しております。今後、ポリオーマウイルスだけでなくインフルエンザウイルス等、ビロポリンを有する他のウイルスにおいても同様の概念で、viroporinを標的としたウイルス感染に対する治療薬の開発が期待されます (Suzuki T. et al. Proc Natl Acad Sci USA, 2013)。

図4. JCVのAgnoptoteinは宿主因子であるAP3Dと結合して、自らのライソゾームへの輸送を阻害し分解を防ぐと共に、細胞膜へ輸送され重合体を形成しviroporinとして機能し、JCV粒子の細胞外への放出を促進する。しかしながら、RK変異を有し、AP3Dと結合しないAgnoproteinはライソゾームで分解される。

図4. JCVのAgnoptoteinは宿主因子であるAP3Dと結合して、自らのライソゾームへの輸送を阻害し分解を防ぐと共に、細胞膜へ輸送され重合体を形成しviroporinとして機能し、JCV粒子の細胞外への放出を促進する。しかしながら、RK変異を有し、AP3Dと結合しないAgnoproteinはライソゾームで分解される。