研究プロジェクト

疫学研究

Fieldにおける疫学研究活動紹介

豚由来H1N1パンデミックインフルエンザウイルス感染症、エボラウイルス病、ヘニパウイルス感染症、中東呼吸器症候群、重症熱性血小板減少症候群、狂犬病に代表される新興・再興感染症の多くは、自然宿主である動物内で維持されていた病原体が、ヒトに伝播した際に重篤な病態を引き起こす人獣共通感染症です。従って、将来発生する新たな人獣共通感染症への備えとして、動物が保有する病原体に関する知見を蓄積することが感染症の先回り対策として重要です。私達はザンビア共和国およびインドネシア共和国に生息する野生動物を対象とした疫学研究を実施しています。

ザンビアはアフリカの南部中央に位置しており、面積は日本の約2倍(75.2万平方km)、人口は日本の約1/10(1347万人)です。ザンビア共和国には73の部族が共存していますが、内政は独立以来安定しています。主な産業はトウモロコシ等を主とする農業、銅鉱業、観光等です。首都のルサカに最大規模のザンビア大学があり、学生数は約1万人です。

北海道大学獣医学部とザンビア大学獣医学部の交流は、日本の無償資金協力により、獣医学部が設立された1985年から継続しており、今年で30年を迎えます。新興・再興感染症研究拠点形成プログラムにより、ザンビア大学獣医学部にP2及びP3実験室を設置し、2008年8月に北海道大学人獣共通感染症リサーチセンターザンビア拠点を設置しました。その後本拠点を活用して様々な活動を実施してきました。

部門長である澤はこれまでに40回以上ザンビア共和国を訪問し、種々の疫学調査を実施しています。

蚊媒介性ウイルスのサーベイランス

蚊媒介性ウイルスのサーベイランス黄熱ウイルス、デングウイルス、リフトバレー熱ウイルス、チクングニアウイルスといったウイルスは、蚊の吸血により人や動物に感染し、重篤な感染症の原因となります。これらの蚊媒介性感染症の流行を予防するため、ザンビア各地域に生息する媒介蚊を採集して、様々なウイルスの保有状況を調査しています。

オルソポックスウイルスのサーベイランス

オルソポックスウイルスのサーベイランスオルソポックスウイルス属には、主に西アフリカ、中央アフリカにおいて発生している天然痘に類似した症状を呈する人獣共通感染症“サル痘”の原因ウイルスであるサル痘ウイルスが含まれます。

私達は、ザンビアに生息する野生動物のオルソポックスウイルスの保有状況を調査しています(Orba Y. et al, J Gen Virol. 2015)。

パラミクソウイルスのサーベイランス

パラミクソウイルス科には麻疹ウイルス、ムンプスウイルス、ニパウイルス、RSウイルスといった人に様々な病気を惹き起こすウイルスが多数含まれています。近年、これらのウイルスの一部が野生動物を起源とすることが明らかになってきました。

そこで、私たちは野生動物を対象としたパラミクソウイルスの疫学調査を実施しています。これまでに、霊長類動物から乳幼児や高齢者に重篤な呼吸器症状を惹起するヒトパラインフルエンザウイルス3型(HPIV3)を検出し、本ウイルス感染が野生動物においても起こっていることを明らかにしました(Sasaki M. et al. Emerg Infect Dis, 2013)。

新規ウイルスの発見

新規ウイルスの発見野生動物が保有する人獣共通感染症原因ウイルスの検索を実施する過程で、私達はこれまで知られていなかった新規のウイルスを多数見出してきましたので、以下にその詳細を記載いたします(図1)。

ザンビアにおいて齧歯類動物であるマストミス(Orba Y. et al. J Gen Virol. 2011)、及びバーベットモンキーから(Yamaguchi H. et al. J Gen Virol. 2013)、また、インドネシアで採集したコウモリから(Kobayashi S. et al. Arch Virol. 2015)新規ポリオーマウイルスを検出することに成功しました。

新規パラミクソウイルスを、ザンビアで採集したコウモリ(Walter M. et al. J Gen Virol. 2014)、及びザンビアで採集した齧歯類動物から(Sasaki M. et al. J Gen Virol. 2014)、更にインドネシアで採集したコウモリ(Sasaki M. et al. Virol J. 2012)から検出しました。

インドネシアで採集したコウモリからは、新規コロナウイルス(Anindita PD. et al. Arch Virol. 2015)のゲノムを検出しています。

また、インドネシアに生息するコウモリの組織から新規ヘルペスウイルスの分離に成功し、これをFruit bat alphaherpesvirus 1 (FBAHV1)と命名して、その性状を解析しました。その結果、FBAHV1はヒト単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)に近縁なヘルペスウイルスであること、FBAHV1が哺乳類動物に高い病原性を示すことを明らかにしました(Sasaki M. et al. J Virol, 2014)。

更に、北海道大学人獣共通感染症リサーチセンターザンビア拠点の石井博士との共同研究において、野生齧歯類動物(マストミス、アフリカンピグミーマウス等)を対象にウイルスの疫学調査を実施し、ウイルス性出血熱の原因ウイルスである、ラッサウイルス群及び、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス群に属する新規ウイルスを単離しました。それぞれのウイルスを、その材料を収集した地名にちなんで、それぞれLunaウイルス(Ishii A et al, Emeg Infect Dis, 2011)、Lunkウイルス(Ishii A et al, J Gen Virol, 2012)と命名しました。

更に、病原体の自然宿主として重要な野生コウモリを対象として、ザンビアの首都であるルサカの近郊に位置する洞窟で採集したコウモリが保有しているウイルスを網羅的に探索しました。この解析から新規ブニヤウイルス科ナイロウイルス属ウイルスを発見し、Leopards Hillウイルスと命名しました。次に、分離した新規ナイロウイルスLeopards Hillウイルスの性状を解析するため、マウスを用いた感染実験を実施し、肝・腎障害、腸管の出血等のクリミアコンゴ・出血熱ウイルスによるヒト出血熱の症状と類似した症状を再現することに成功しました(Ishii A et al. Nat Commun, 2014)。

図1 ザンビアの野生動物から単離・検出した新規ウイルスのリスト

図1 ザンビアの野生動物から単離・検出した新規ウイルスのリスト

次世代シーケンサーを用いた網羅的解析

モグラ、ジネズミに代表される食虫動物は人の居住環境周辺に生息しています。その遺伝的背景や食性は齧歯動物のものとは大きく異なるため、保有する病原体も齧歯動物のものとは異なることが予想されますが、食虫動物が保有するウイルスに関する知見はほとんどありません。

そこで、次世代シークエンサーを用いてジネズミ糞便のメタゲノム解析を実施し、糞便中に存在するウイルスについて網羅的に検索しました。その結果、ヒトの急性腸炎や原因不明神経疾患の患者便から検出されたウイルスに近縁な新規サーコウイルス、ピコルナウイルス、パルボウイルスが見出され、ジネズミが人獣共通感染症を引き起こす病原体の潜在的な宿主であることを明らかにしました(Sasaki et al. J. Gen. Virol., 2015)。検出したパルボウイルスの類縁ウイルスはザンビアに生息する霊長類動物からも検出され、進化系統解析の結果、これらの新規パルボウイルスはヒトの下痢症患者から検出された新しいパルボウイルス Bufavirus に近縁なウイルスであることが明らかとなりました(Sasaki M. et al. Emerg Infect Dis, 2015)。