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人獣共通感染症リサーチセンター

あいさつDirector's Message

喜田 宏 近年、伝達性ウシ 海綿状脳症、SARS、ニパウイルス、ハンタウイルス、ヘンドラウイルスや新型インフルエンザウイルス感染症、エボラ出血熱、肺ペス ト、レプトスピラ病などの新興・再興感染症が世界各地で発生し、人類を脅かしています。これらはすべて、自然界の野生動物に寄生し、 被害をおよぼさずに存続してきた微生物が、時に家畜、家禽そしてヒトに侵入、伝播して悪性の感染症をひきおこす人獣共通感染症です。 近年の著しい地球環境の変化は、病原巣宿主の生態と行動圏を攪乱し、野生生物と人間社会の境界消失をもたらしました。その結果、病原 体が家畜、家禽と人に伝播する機会が増え、人獣共通感染症の多発を招いています。さらに貿易のグローバル化とボーダーレスの国際交流 が進み、食肉、飼料、野生動物やペットの輸入と旅行者の増加に伴って、人獣共通感染症が日本に侵入する危険度はますます高まっています。

 人獣共通感染症の先回り予防策は、自然界野生動物宿主を特定し、伝播経路を解明してはじめて可能になります。ところが、自然界の微 生物の検出技術、宿主域、生態、病原性、および感染症の発生予測と予防・制圧方法を総括的に研究開発する組織は、我が国のみならず世 界にも未だありません。また、人獣共通感染症の予防と制圧に向けた研究と対策を推進できる人材が極めて少ないのが現状です。医学の研 究・教育の目的は、ヒトの健康保持・増進であり、獣医学のそれは、家畜、家禽、蜜蜂、魚とペット動物の病気の予防・治療です。行政で は、人の医療は厚生労働省の、家畜、家禽と蜜蜂の伝染病予防は農林水産省の管轄下にあります。したがって、人獣共通感染症は、研究教 育および行政の何れにおいてもカバーされない狭間にあり、人獣共通感染症の包括的な研究・教育を行うための基盤がありません。このよ うな状況下で人獣共通感染症が発生した場合、責任体制が不明確となり、制圧対策を誤り、取り返しのつかない事態を招く恐れがありま す。人獣共通感染症の発生頻度が高いアジア・アフリカ諸国に対して、我が国は科学先進国としての責任を果たしていません。

 北海道大学は、人獣共通感染症の現状と国内外における関連研究の立ち遅れに強い危機感を抱き、人獣共通感染症の研究・教育を抜本的 に強化するために、平成17年4月1日「人獣共通感染症リサーチセンター」を設置しました。センターが行う研究・教育活動は、医学、 獣医学、薬学、工学、理学を基盤とする、微生物学、ウイルス学、免疫学、病理学、情報科学等の専門家が結集、協力して新たな分野を創 生し、研究・教育を推進するという点で他に類を見ないものです。本センターは、人獣共通感染症に特化した研究・教育を推進すると共 に、世界のフィールドから診断・研究材料を受け付けてこれらに対応する中核拠点でもあります。研究面では、人獣共通感染症病原体の自 然界における存続メカニズムを解明し、その出現予測、予防と制圧を目指して全地球規模の疫学調査を展開するとともに、病原体の遺伝子 および病原性や宿主域を決定する諸因子を明らかにします。また、得られた情報をデータベース化し、人類共有の生物資源として系統保存 し、的確な診断抗原とワクチン株を供給します。さらに、世界の人獣共通感染症の疫学情報と病原体の遺伝子解析成績の利用と供給を図 り、それぞれの人獣共通感染症の診断と治療法および予防対策を立案・提言します。他方、教育面においては、国内外の研究者、大学院学 生ならびに専門技術者に対して人獣共通感染症の克服に向けた教育・研修コースを提供して、人獣共通感染症対策の専門家を世界に送り出 すことを使命としています。
 

平成17年10月
喜田 宏