国立大学法人北海道大学人獣共通感染症国際共同研究所
統括 特別招へい教授、ユニバーシティプロフェッサー 喜田 宏

ごあいさつ

近年、SARSMERS、エボラやジカウイルス感染症、パンデミックインフルエンザ、肺ペスト、レプトスピラ病などの新興・再興感染症が世界各地で発生し、人類を脅かしています。また、世界は今、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)のパンデミックに翻弄されています。これらはすべて、自然界の野生生物を自然宿主として存続してきた微生物がひきおこす人獣共通感染症です。急激な人口増加、地球環境の急変と交通網の発展が、野生生物と人間社会の境界消失をもたらした結果、病原体が家畜、家禽と人に伝播する機会が増え、人獣共通感染症の多発を招いています。痘瘡、麻疹やポリオなど人だけの感染症とは異なり、人獣共通感染症を根絶することはできません。その発生と流行に備えた先回り対策によって克服しなければなりません。人獣共通感染症の先回り対策は、その病原微生物の自然宿主と人への伝播経路を解明してはじめて可能になります。そのためには、自然界に存続する微生物の網羅的検索、生態、宿主域、病原性ならびに感染症の予防・制圧方法を総括的に研究開発する組織が必要です。

北海道大学は、人獣共通感染症の研究・教育を強化するために、世界に先駆けて、200541日に5年時限で人獣共通感染症リサーチセンターを設置しました。同センターの活動は、医学、獣医学、薬学、工学、理学を基盤とする専門家が結集して新たな分野を創成し、研究・教育を推進するという点で他に類を見ません。同センターは、特に自然界における人獣共通感染微生物の存続メカニズムならびに病原体の宿主域と病原性を決定する諸因子の解明を目指してきました。さらに、地球規模の疫学調査で分離された多数の病原体を系統保存し、ワクチン、診断と治療薬の開発に利用するために病原体ライブラリーを構築しています。次のパンデミックインフルエンザに備えるために確立した北海道大学インフルエンザウイルスライブラリーはその第一例です。これらの活動が評価され、2010年4月1日にセンターは、全国共同利用・共同研究拠点として文部科学省に認定され、5年の時限が解かれました。翌20111125日には、WHOに人獣共通感染症研究協力センターとして指定されました。

人獣共通感染症リサーチセンターの16年にわたる活動は、関連学会、文科省、農水省、厚労省および環境省、製薬・ワクチン・診断機材産業、諸外国の関連研究所ならびにWHOOIEおよびFAOなどの国際機関に高く評価されるに至りました。これを受けて、北海道大学は、令和341日付けで、同センターを人獣共通感染症国際共同研究所に改名・改組しました。

研究所組織は、3ユニットから成ります。人獣共通感染症リサーチセンターの、国際疫学、分子病態・診断、バイオリソース、国際協力・教育、バイオインフォマティクス、危機分析・対応、生物製剤研究開発とシオノギ抗ウイルス薬研究部門およびザンビア拠点に加えて、病原体構造解析と国際展開推進部門から成る人獣共通感染症研究ユニット、ワクチン・創薬研究、病原体探索と病原体ゲノム解析グループから成る国際協働ユニットならびに獣医学研究院の微生物学、獣医衛生学、感染症学、公衆衛生学と寄生虫学部門が兼担で獣医学研究ユニットを構成しています。

2019年末に中国武漢市で発生が認められ、20223月現在もなお、全世界に拡がったCOVID-19パンデミックは、感染症に国境がないこと、その克服には国際協働が必須であることを再認識させました。新興人獣共通感染症の出現頻度はますます高くなっています。世界が一つになってCOVID-19を克服し、次のパンデミックに備えなければなりません。平時から、地球規模の疫学調査を継続するとともに、産・学・官一体で、感染症の予防・診断・治療法の開発・実用化を推進し、有事に備える国家システムを構築する必要があります。人獣共通感染症国際共同研究所は、そのシステムの中核として、One World, One Health傘下で、人獣共通感染症の克服に向けた使命を果たします。

 

 

 

喜田 宏 プロフィール

生年月日  1943年12月10日(78歳)

本  籍  北海道札幌市

 

  • 北海道大学ユニバーシティプロフェッサー
  • 同大人獣共通感染症国際共同研究所 特別招聘教授・統括
  • WHO人獣共通感染症対策研究協力センター長
  • 獣医学博士、日本学士院会員、文化功労者
  • WHO IHR (International Health Regulation)委員
  • 同  COVID-19緊急委員
  • OIE ヒトと動物間感染症エキスパート

 

 

略歴

1967年 3月25日 北海道大学獣医学部獣医学科卒業
1969年 3月25日 同大学大学院獣医学研究科予防治療学専攻修士課程修了
1969年 4月 1日 武田薬品工業株式会社技術研究職 ~1976年2月28日
1976年 3月 1日 北海道大学獣医学部 講師 ~1978年3月1日
1978年 4月 1日 同大獣医学部 助教授 ~1994年5月31日
1980年12月1日 米国St. Jude Children's Research Hospital客員科学者~1981年11月
1986年1月15日 同上 客員教授 ~1987年 1月14日
1989年 1月 1日 ザンビア大学教授 ~1989 年 3月31日
1994年 6月1日 北海道大学獣医学部 教授
1995年 4月1日 同大大学院獣医学研究科 教授 ~2012 年3月31日
1995年 6月 1日 同大 評議員 ~2001年 4月31日
2001年 5月 1日 同大大学院獣医学研究科長・獣医学部長 ~2005年4月31日
2005年 4月 1日 同大人獣共通感染症リサーチセンター長 ~2012年3月31日
2007年12月12日 日本学士院会員 ~現在
2012年 4月 1日

同大名誉教授 ~現在
同大大学院獣医学研究科 特任教授 ~2014年 3月31日
同大人獣共通感染症リサーチセンター 統括 ~2020年3月

2014年 4月 1日

同大人獣共通感染症リサーチセンター特任教授~2016年3月31日
同大国際連携研究教育局 特任教授 ~2016年3月31日

2016年 4月 1日

同大ユニバーシティプロフェッサー ~現在
同大人獣共通感染症リサーチセンター特別招聘教授~2020年3月31日

2017年 4月 1日 長崎大学感染症共同研究拠点長 ~2021年7月31日
2021年 8月 1日 同顧問~現在
2021年 4月 1日 北海道大学人獣共通感染症国際共同研究所 特別招聘教授・統括 ~現在

 

 

その他の主な役歴

2004年10月1日 OIE鳥インフルエンザレファレンスラボラトリー長~2017年3月
2014年 4月 1日 日本獣医学会名誉会員
2017年10月25日 日本ウイルス学会名誉会員(平成14年学術集会・総会会長)
2020年12月 8日 日本ワクチン学会名誉会員(平成21年学術集会・総会会長)

 

受賞

  • 1982年 4月 日本獣医学会賞「鳥類パラミクソウイルスの分類に関する研究」
  • 2002年 3月 北海道科学技術賞「新型インフルエンザウイルスの出現機序の解明と対策に関する研究」
  • 2004年11月 第58回北海道新聞文化賞「鳥、動物とヒトインフルエンザウイルスの生態学的研究」
  • 2005年 4月 平成17年度 日本農学賞・読売農学賞「インフルエンザウイルスの生態に関する研究」
  • 2005年 6月 第95回 日本学士院賞「インフルエンザ制圧のための基礎的研究 ―家禽、家畜およびヒトの新型インフルエンザウイルスの出現機構の解明と抗体によるウイルス感染性中和の分子的基盤の確立―」
  • 2009年 2月 平成20年度 畜産大賞「インフルエンザウイルスの生態解明とライブラリーの構築-高病原性鳥インフルエンザの診断と予防への応用-」
  • 2011年11月 平成23年度 農事功績表彰緑白綬有功章「鳥インフルエンザの制圧」
  • 2016年10月 北海道功労賞「インフルエンザウイルスの生態解明と対策への貢献」
  • 2017年 4月 瑞宝重光章
  • 2017年11月 文化功労者 「ウイルス学及び国際貢献」
  • 2017年12月 タイ王国 タマサート大学 「公衆衛生学」名誉博士称号
  • 2019年11月 日本ワクチン学会 高橋賞「パンデミックインフルエンザワクチンの開発と実用化研究」

 

 

主な功績

喜田宏教授は、地球規模でインフルエンザウイルスの生態を研究し、以下の知見を得て、自然界におけるインフルエンザウイルスの存続機構を解明しました。 1) インフルエンザは人獣共通感染症である。2) インフルエンザAウイルスの自然宿主は鴨である。3) ウイルスは鴨の結腸陰窩を形成する上皮細胞で増殖する。4) 鴨は、大腸で増殖したウイルスを糞便と共に大量に排泄する。5) シベリア、アラスカ、カナダの鴨の営巣湖沼水中に排泄されたウイルスは、他の水禽に水系で感染する。6) 鴨の間を循環するウイルスの遺伝子と抗原性は安定である。7) 鴨の営巣湖沼水中のウイルスは、鴨が南方に渡りに飛び去った後、冬期間に凍結保存される。

喜田教授はまた、8) 1968年に出現したA/Hong Kong/68 (H3N2)パンデミックインフルエンザウイルスは、鴨のウイルスのHA遺伝子が人の季節性アジア(H2N2)ウイルスに組み込まれた遺伝子再集合体である。9) 1918年、1957年と2009年に出現した、それぞれH1N1、H2N2およびH1N1パンデミックインフルエンザウイルスも、鴨由来のウイルスと人の季節性インフルエンザウイルスが豚の呼吸器に同時感染して生じた遺伝子再集合体で、それぞれのHA遺伝子は鴨のウイルスに由来する。ことを明らかにしました。これらの知見に基づき、10) すべてのHAとNA亜型の組み合わせ144通りのインフルエンザAウイルス4,700余株とその遺伝子のライブラリーを構築しました。11) このライブラリーのH1N1、H2N2、H4N6、H5N1、H6N2、H7N7、H7N9およびH9N2ウイルスで、不活化ウイルス全粒子ワクチンを試製し、鶏、マウスおよびサルに対して高い免疫を付与することを確認しました。すなわち、これから出現するパンデミックインフルエンザのワクチン製造株は、ライブラリーに用意されていることを明示しました。

喜田教授は、2015年に日本の4全インフルエンザワクチンメーカー、北大、滋賀医大、熊本大と感染研が構成する、全日本インフルエンザワクチン研究会を発足させ、優れた季節性およびパンデミックインフルエンザワクチンの開発・実用化プロジェクトに取り組んでいます。基礎研究で好成績が得られ、非臨床試験で安全性と動物に対する免疫原性を確認しました。現在、第I/II相の臨床試験を進めています。被験者に有害事象は認められていません。

 

 

専門分野

獣医微生物学、ウイルス学、細菌学、人獣共通感染症学、ワクチン学、免疫学

 

 

業績

審査付英文原著論文 :364篇  著書・総説 :186篇

国内外・国際学会招待・基調講演:200回を超える

 

 

連絡先

〒001-0020 札幌市北区北20条西10丁目

Tel: 011-706-9500 Fax: 011-706-9500

E-mail: kida@vetmed.hokudai.ac.jp

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