所長挨拶

人獣共通感染症の克服に向けて

2019年末に最初に報告されたCOVID-19は、現在世界中の人々を苦しめています。また、牛海綿状脳症、SARS、ニパウイルス、ハンタウイルス、ヘンドラウイルスや新型インフルエンザウイルス感染症、エボラ出血熱、肺ペスト、レプトスピラ病などの新興・再興感染症が世界各地で発生し、人類を脅かしています。これらはすべて、自然界の野生生物に寄生し、被害をおよぼさずに存続してきた微生物が、時に家畜、家禽そしてヒトに侵入、伝播してひきおこす人獣共通感染症です。近年の著しい地球環境の変化は、野生生物の生態と行動圏を攪乱し、人間社会との境界消失をもたらしました。その結果、病原体が家畜、家禽と人に伝播する機会が増え、人獣共通感染症の多発を招いています。さらに貿易のグローバル化とボーダーレスの国際交流が進み、食肉、飼料、野生動物やペットの輸入と旅行者の増加に伴って、新たな人獣共通感染症が日本に侵入する頻度はますます高くなっています。人獣共通感染症は、ヒトだけを宿主とする痘瘡などと異なり、根絶することはできません。先回り対策によって克服しなければなりません。COVID-19は、感染症に国境がないこと、その克服には国際協調が必須であることを再認識させることとなりました。

 

人獣共通感染症の先回り対策は、自然界野生動物宿主を特定し、伝播経路を解明してはじめて可能になります。ところが、自然界の微生物の検出技術、宿主域、生態、病原性、および感染症の発生予測と予防・制圧方法を総括的に研究開発する組織は、2005年に北海道大学に人獣共通感染症リサーチセンター設置されるまで、我が国のみならず世界にもありませんでした。また、未だ人獣共通感染症の予防と制圧に向けた研究と対策を推進できる人材が極めて少ないのが現状です。医学の研究・教育の目的は、ヒトの健康保持・増進であり、獣医学のそれは、家畜、家禽、蜜蜂、魚とペット動物の病気の予防・治療です。行政では、人の医療は厚生労働省の、家畜、家禽と蜜蜂の伝染病予防は農林水産省の管轄下にあります。したがって、人獣共通感染症は、研究教育および行政の何れにおいてもカバーされない狭間にあり、人獣共通感染症の包括的な研究・教育を行うための基盤がありませんでした。

 

北海道大学は、人獣共通感染症の研究・教育を強化するために、2005年4月1日「人獣共通感染症リサーチセンター」を5年の時限で設置しました。センターの研究・教育活動は、医学、獣医学、薬学、工学、理学を基盤とする、微生物学、ウイルス学、免疫学、病理学、情報科学等の専門家が結集、協力して新たな分野を創成し、研究・教育を推進するという点で他に類を見ないものです。同センターは、人獣共通感染症に特化した研究・教育を推進すると共に、世界のフィールドから診断・研究材料を受け付けてこれらに対応してきました。さらに、人獣共通感染症病原体の自然界における存続メカニズムを解明し、その出現予測、予防と制圧を目指して全地球規模の疫学調査を展開するとともに、病原体の遺伝子および病原性や宿主域を決定する諸因子を明らかにすることを使命として活動してきました。また、得られた情報をデータベース化し、人類共有の生物資源として系統保存し、的確な診断抗原とワクチン株を供給してきました。次のパンデミックインフルエンザ出現に備えて構築した北海道大学インフルエンザウイルスライブラリーがその一例であり、モデルです。さらに、世界の人獣共通感染症の疫学情報と病原体の遺伝子解析成績の利用と供給を図り、それぞれの人獣共通感染症の診断と治療法および予防対策を立案・提言することをその使命として活動してきました。教育面においては、国内外の研究者、大学院学生ならびに専門技術者に対して人獣共通感染症の克服に向けた教育・研修コースを提供して、人獣共通感染症対策の専門家を世界に送り出してきました。

 

これらの活動が評価され、2010年4月1日にセンターは全国共同利用・共同研究拠点として文部科学省に認定され、5年の時限が解かれました。翌2011年11月25日には、WHOに人獣共通感染症研究協力センターとして指定されました。

 

16年間、外部資金によって進めてきた人獣共通感染症リサーチセンターの活動成果は、関連学会、文科省、農水省、厚労働省および環境省、製薬・ワクチン・診断機材産業、諸外国の関連研究所ならびにWHO、OIEおよびFAOなどの国際機関に高く評価されるに至りました。これを受けて、北海道大学は、令和3年4月 1日付けで、同センターを付置研究所、人獣共通感染症 国際共同研究所に改名・改組しました。

 

新たな一歩を踏み出した人獣共通感染症国際共同研究所は、3ユニットから成ります。すなわち、人獣共通感染症リサーチセンターを基盤として組織した人獣共通感染症研究ユニット、学内の国際連携研究教育局に設置の人獣共通感染症グローバルステーションを内在化した国際協働ユニット、ならびに獣医学研究院の感染症系5教室の教員を兼務教員として配置した獣医学研究ユニットです。所員は、一丸となって人獣共通感染症の克服に向けて邁進します。

(2021年4月1日)
所長 鈴木 定彦

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